vol9.原価計算の種類

原価計算では、いくつかの対をなす概念がある。
・「個別原価計算」と「総合原価計算」
・「実際原価計算」と「標準原価計算」
・「全部原価計算」と「直接原価計算」

(1)「個別原価計算」と「総合原価計算」
・「個別原価計算」とは
 一つ一つの製品、あるい一つ一つの製造ロットごとの原価を計算する方法である。

・「総合原価計算」とは
 一定の期間に発生した製品原価の総額を、生産量で按分して製品の単体の原価を計算する方法である。
 同じ製品を大量生産した場合、一つ一つ原価計算をするとなると膨大な手間がかかってしまうため、一定の期間ごとにまとめて計算する方法がよく使用される。
 連続的に大量生産する製品である場合は総合原価計算が効率的である。

要するに、言葉どおり「個別」に原価を算出するか、「総合的」に原価を算出するか。ということ。
選択の制限さえなければ、より正確性の高い「個別原価計算」で算出するに越したことはない。
メリット・デメリットを整理すると、以下のようになる。

個別原価計算総合原価計算
メリット各製品・各製造ロットの原価を正確に計算できる計算ルールがシンプル
デメリット 細かい計算ルールの設計と、計算する仕組みが必要
何かしらの原価計算システムが不可欠
製品の類似度が高いことが前提

(2)「実際原価計算」と「標準原価計算」
・「実際原価計算」とは
 一つの製品を製造した際にかかった費用や時間などを積算して、原価を計算する方法である。
 実際に使用されたコストで計算するため、正確なコストを算出できる。
 制度会計である決算書の作成の際は必要となる。

・「標準原価計算」とは
 過去の製造実績などをもとに算出した"目標値"である標準原価をベースとして計算する方法である。
 目的は主に2つ。
  •  ①原価低減にあたっての施策を検討する。あるいは販売単価の見直しなど、さらなる利益の向上を図るべく、
       実際にかかった原価とあらかじめ目標と定めた原価を比較し、差異の原因を分析する。
  •  ②前述の「個別原価計算」を実施するにあたり、実際原価計算に基づいた計算は難しいが、簡易的にでも「個別原価計算」を実現するために算出する。
       ただし、財務会計上は「実際原価計算」が必要であるため、会計システムと連動する場合は「実際原価計算」と併用が必要となる。

・「実際原価計算」と「標準原価計算」の違い
 実際にかかった費用や時間を使用している場合は「実際原価計算」、実際にかかった費用と関係なく、しかるべき原価算出基準に基づいて計算する場合は「標準原価計算」
 計算処理が複雑なため、速報性が遅いのが「実際原価計算」、標準値をもとにするため、速報性が速い。あるいは、あるべき原価を算出するのが「標準原価計算」

(3)「全部原価計算」と「直接原価計算」
・「全部原価計算」とは
 製品の製造に変動費や固定費を分けることは意識せず、発生した費用のすべてを「原価」として計算する方法である。
 変動費と固定費の区別をしていないため、売上高が増減した際に原価や利益がどのように増減するのか、あるいは損益分析分岐点はどうなのかが把握しづらい。

・「直接原価計算」とは
 費用を固定費と変動費に区分して、そのうちの変動費を原価として計算する方法である。
 このとき、売上高から、変動費のみに着目した原価を差し引いたものを「変動製造マージン」と呼ぶ。
 これにより、損益分岐点(採算ライン)の算出ができるようになり、  あるいは固定費部分の製造原価の「ある製品にかかる額」をどう算出するかも検討の必要がるが、ある製品の採算ラインも算出ができるようになる。

・「全部原価計算」と「直接原価計算」の違い
 直接的な違いは、固定費と変動費を区別するかしないかの違いだが、目的としては
 発生原価をつかむためには「全部原価計算」
 採算ラインをつかむためには「直接原価計算」
 となる。  

(2021年10月8日)

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